浪江町・古殿町へ行ってきた
お盆なんてどこへ行っても混んでいるし、家でごろごろしているが1番だ!なんて消極的日本人の僕だけど、シェアハウスの住人に使命感にも似た勢いで、旅行を計画されて、旅立つ事になった。
とはいえ行く所が決まっていない…。
日夜、どこへ行くか会議が行われるが、話しは脱線して、旅行計画は何も決まる事なく、中空に霧となって消えて行く。
出発 3日前、ぼくが帰ってくるとあじさんが電話をかけまくっている、聞くと、宿代と足代を浮かせる為に、だれかれ構わずかけているとのこと、暫くすると何やら話がまとまった様子だー。
「明後日行っていい?」「うん」ってどんな奴だよ!
と思ったけれど、特にいいアイデアもなくここまで来てしまっているので、渡りに船で古殿町に行く事に決定した。
ネモの家に行くついでに、浪江町へ行く事も決まった。現在の制限区域がどうなっているのかこの目で見てみたいからだ。
行き先は決まったあとは、足だ。
車は、流石のあじさんでも見つける事が出来ずレンタカーを借りる事に、しかしお盆でどこもいっぱいで借りる事が出来ない。やっと見つけたのが、埼玉のニッポンレンタカー。
電車で埼玉県大宮まで行ってそこから、福島県古殿町を目指す事になった。
8月11日
【シェアハウス→ラーメン凪→往路】
当日朝まで仕事をしていたあじさんは向かう電車で既に限界を迎えている。
丸ノ内線と埼京線を乗り継いで、大宮へ、小腹が減っていたので、駅で見かけた「空飛ぶラーメン」と描かれたポスターの店「凪」へ入る。
朝からラーメンの一杯でもかきこんどかないと気合いが入らない。
いったい空飛ぶラーメンとはどのようなものか。
店先で食券を買って席に着く、左手にある液晶端末で、麺の固さや油の量などを選んで、ラーメンを待つ。
暫く待つと、目の前の上下2列に並んだレーンをラーメンが滑り込んでくる。
回転寿司の要領でラーメンがやってくる、これが「空飛ぶ」の正体だったのだ。ラーメンが空を飛ぶ訳はなく、それは例えだと分かっていても気になってしまうものだ。
そうだよね。こうゆう事だよね。なんて思いながらラーメンをすする。
ラーメンは美味しかったのだけど、空飛ぶを体験出来た時点で半分は終わっていて、味の評価など、もはや、どうでもいい事なのかもしれない。
そもそも料理を味で評価することほど前時代的なことでは無いだろうか。
盛り付け、雰囲気も味の一部と考えていい時代なのでは、ないだろうか、などとラーメン凪に考えさせられながらラーメンを完食し、店を後に、レンタカー屋へ向かうのだった。
車を借りていざ出発、高速にのって少し進んだ所で、ストップ。渋滞だ。
予想はしていた事だけど、こうも動かないと飽きてくる。たらたらと一向に進まない、常磐道。
今話題のアプリ「ポケモンGO」を開くと僕のアバターもゆっくりと歩いている。どこか所在無げだ。
進み出したが尚ゆっくり、する事もなく、家にいるのと変わらない会話をしながら目的地を目指す。
浪江町は制限区域となっていて、昼間の間は、一時的に帰宅が許されていのでちらほらと車の通りはあるが、外を歩いている人は皆無だ。
傾いた家。
除染後の土が入っている大量の黒い袋。
封鎖され荒れ果てた駅。
浪江町で唯一やっているコンビニに行くと、何人も人がいて、ここで営みを続けている人達に、憐れみの目を向けてしまう。
僕たちよそ者が物珍しさでやって来ている事には、何も感じてはいないだろうが、なんだか悪い事をしているような迷惑をかけているような気持ちになってくる。
震災から4年、目に見えない恐怖は未だそこにあると実感した。
ネモに連絡するとセブンイレブンまで来てとの事。そう古殿町にはセブンイレブンが一軒しかないのだ。コンビニは二軒あるが、うち一軒は20時に閉まる。
ネモと、あじさんは、キャバクラで働いていた時の同僚で、楽しそうにキャバクラ時代の話しに花を咲かせている。
ネモはスタッフとして働いていたキャバクラに母親を連れてくるような狂った一面を持っているのだが、どこの馬の骨ともわからない僕たちに、時にフレンドリーに接して、時にキャバクラの客の様に接する。初対面の人には店員と客の様に接する癖がついている様子だった。
町に二軒しかない、居酒屋「ひょうたん」に連れて行ってもらい。
ネモの家へと向かう。ネモの家は旧家らしく立派な家だった。
家にバーカウンターのついた部屋があり東京では考えられない素敵な空間が広がっていた。
夜勤明けでやって来たあじさんはソファに保たれて既に落ちている。
お酒が飲めない僕も重い瞼と葛藤しながら全身のだるさと闘っている。
同居人のグラくんとノラくん、ネモはギャアギャアと大騒ぎをしているが、僕の頭には文字通りギャアギャアとだけ聞こえてくる。
ギャアギャアの内容はギャアギャアでしかないのだ。
夜が明けてー。
Blu-ray付きの大きいテレビではオリンピックの陸上がやっていて、ネモがピアノを披露している。
それを尻目に外に出ると、四方を山々に囲まれた、街の全貌を知る事が出来る。人は山と山の間に住居を構えるんだなぁなどと思い、道に出ると、蛇がとぐろを巻いている。
おばあちゃんちみたい。
道の駅を目指し出発する。
注文してから1時間以上、料理が来ない中華屋で食事を済ませ、あぶくま洞へと向かう。
あぶくま洞は、有名な観光地で、1時間以上かけて鍾乳洞の洞窟を歩く。
この日はお盆で観光客で溢れかえっていて、ずらずらと列をなして歩く洞窟はなんだか、物足りないものに感じてしまった。列の先に美味しいラーメンでも待っていたら違ったのだろうが列の先には列の終わりがあるだけ。
入った瞬間のヒンヤリした体感がピークで。
あとは凡庸なものに感じてしまった。
何万年の時をかけて作り出された自然の芸術に固唾を飲む予定だったのだが、駐車場に居た誘導係の異様に太った男だけが僕らの印象に強く残った。
前世の罪で醜い姿に変えられてしまった、推定体重300kgのこの男は、目の前にある、鍾乳洞には入れないだろう。
一生懸命、体をくねらせたところであの狭い洞窟を歩く事は到底出来ない。あぶくま洞で働きながら、あぶくま洞に入らずに、駐車場で一生を過ごすのだ。
この男は、ここまでどうやって来たのだろう、車に乗る事など到底出来ないだろうし、自分の足なんて、数年も見ていないのではないだろうか。
しかし、人間には自分で見れない自分の肉体が結構ある。
尻の穴はもちろん背中も見れないのだ、鏡やカメラなどを使えば見れるのだが、見る必要が無いので見ないで過ごしている。
事実、僕は自分の尻の穴を33年間見た事が無い!そこに星型のホクロがある可能性があると言うのに!
しかし星型のホクロがあったからと言ってどうという事は無くて、誰に自慢する事は出来ないし、見える部分が少ないからと言って何か変わるかと言って何も変わらないじゃないか。
巨漢の男も前世の呪いなど気にせずに今世を満喫してもらいたい。
巨漢をバックミラーに別れを告げて、大宮に向けて走り出す。
予想はしていたが帰りも大渋滞にはまり、6時間かけて大宮のレンタカー屋へたどり着いた。
お盆なんかに旅行するなんて発想は一切なかったが、行ってみるとそれはそれで楽しいもので、それは計画を立ててくれたグラくんのおかげであり、狂気の男ネモにたどりつかせてくれた、あじさんのおかげであり、いつも正しい判断をするノラくんの おかげで、愉快な人たちが居なかったら、この旅行はなかった。
9月末にはネモが東京に来ると言うので再開が楽しみだ。
あの巨漢の男にもいつか再会出来るかもしれない。